男弟・難升米・都市牛利~女王のために奔走した邪馬台国家臣団

太田先生

古代日本に栄えた邪馬台国と言えば卑弥呼、壱与と言った女王の国と言う印象が強いですが、その女王達が国を治めた背景には彼女らを助けて邪馬台国の発展と存続に尽くした男性の家臣達がいました。
本項では男弟こと卑弥呼の弟、魏に派遣された大夫の難升米、その次使である都市牛利の3人を紹介していきます。

姉以上に謎の多い卑弥呼の弟・男弟

男弟(なんてい、だんてい)の存在を示している資料は『無夫壻有男弟佐治國』と記された魏志倭人伝の一節です。訳すれば、婿・夫がおらず独身の卑弥呼の政治を弟が助けていたとするもので、当時最も重んじられたとされる祭祀を姉が受け持ち、政治や軍事など世俗権力は弟が受け持っていた、古代日本のヒメ・ヒコ制を記したものであるとみなされています。


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しかし、この男弟とその実像については資料が少ないことから不明点が多く、考古学者の寺沢薫さんは男弟こそ男系王統に就く存在で、卑弥呼は祭主として彼の王権を保証する存在であったとする説を出しています。また、

・『海部氏勘注系図』や『先代旧事本紀』に記された宇那比姫命(うなびひめのみこと)を卑弥呼とした場合、その義理の弟に当たる孝安天皇を男弟とする説
・日本神話の神である天照大神を卑弥呼のモデルとした場合、その弟である月読尊や須佐之男命が反映されたとする見解(※1)

など、諸説が存在しており、はっきりとした生没年はおろか人物像も不明です。

なお、そのためかこの時代を扱った作品での男弟の描かれ方も一定せず、生死を問わず卑弥呼の生前に作中から姿を消したり、卑弥呼の没後に野心を現して後継者(※2)になったとするもの、逆に姉のために尽くす賢弟・忠臣的に描かれるなど、資料が乏しいことでかえって創作での活躍の幅が増えた人物の一人と言えます。

魏からの支援を見事に取り付けた難升米と都市牛利

邪馬台国の政治や軍事に貢献したのが男弟であれば、外交面で活躍したのが大夫(※3)の難升米(なしめ、なんしょうまい※4)と次使の都市牛利(つしごり)です。都市牛利の名前については、フルネームとする説と『都市=市を監督する役人としての名前』で牛利と言う人名であったとする説があります。

この2人が歴史上に登場するのは中国の三国時代にあたる239年(魏の景初3年)6月のことで、卑弥呼の命を受けて帯方郡(朝鮮半島中西部)を訪れました。邪馬台国の使節団は帯方の太守・劉夏に迎えられ、護衛をつけられて魏の都・洛陽に向かいます。

班布(模様を様々な色で染めた布)を二匹二丈、捕虜身分と言われる生口(※5)の男四人と女六人を奉げたことに対して時の魏皇帝である明帝はいたく喜び、卑弥呼に親魏倭王の位と金印紫綬(※6)を始めとした多くの贈り物を賜りました。また、難升米を本来ならば内臣の武官しかなれないはずの率善中郎将、都市牛利には宮城を護る役目である率善校尉に任命します。

こうした難升米と都市牛利の努力は見事に実り、邪馬台国と狗奴国の争いが起きた時には247年(魏の正始8年)に魏から張政が来日して難升米に黄幢(皇帝を象徴する黄色い旗)と詔書を贈り、魏を邪馬台国の後ろ盾として得たことで和平の仲介を導くことに成功しました。

その後の難升米と都市牛利の動向については不明ですが、狗奴国との戦いが終わって卑弥呼が亡くなった後、男子の王では争いが起きたので壱与が女王として即位して邪馬台国が平穏になったとする魏志倭人伝の記録を見ると、決して彼らの貢献は徒労に終わることはなかったようです。

如何だったでしょうか。弥生時代の我が国を発展させた人傑と言えば女王・卑弥呼の名が一番に上がりますが、その偉業を蔭ながら支えた男性の臣下達の存在も当然欠かすことはできず、記紀や魏志に遠く及ばないながらも彼らの活躍について“列伝”を記してみたいと思い、本項を執筆しました。邪馬台国を巡る人々はまだ他にもいますが、この度はここで筆を置かせて頂こうと思います。


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(※1) 手塚治虫さんの名作・火の鳥では後者に当たるスサノオという名前で登場
(※2)魏志に記された、卑弥呼没後、壱与が即位する前にいたとされる男子王と同一視して描写
(※3)古代中国では領地をもつ貴族、ないしは県の長官を指した
(※4)日本書紀によれば難斗米(なとめ)
(※5)奴隷階級ではなく献納すべき技能を持った者、中国に派遣された留学生と言う説もある
(※6)中国王朝の臣下とされた異国の指導者・外臣で、王号を持つ人物が授けられた金印。紫のひもがついていた。

参考文献・サイト(敬称略)

弥生ミュージアム 魏志倭人伝 
社会科通信なんでやねん 
邪馬台国を探せ!
三国志辞典 渡邉義浩 大修館書店
卑弥呼邪馬台国のなぞの女王 すがともこ 集英社
マンガ日本史 卑弥呼 藤原カムイ 朝日新聞出版
卑弥呼まぼろしの女王 ムロタニツネ象 学研プラス
火の鳥黎明編 手塚治虫 角川書店

(寄稿)太田

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