鈴木久三郎とは~“鯉の話”のモデル?家康を二度も救った知られざる忠臣の物語

鈴木久三郎

大河ドラマ『どうする家康』の後半から時おり劇中に登場し、最終回でその全貌が明かされた“鯉の話”があります。

それは、織田信長から賜った鯉が行方不明になったばかりか、それを食べてしまったものがいたために大騒動に発展するが、最終的に家康は家臣と鯉を引き換えにできないと許してしまい、実は彼らが総出で家康を担いでいたと言うコミカルながらも主従の絆を強く描いたオチがついて終わりとなります。

そんな“鯉の話”は『どうする家康』の創作ではなく、江戸時代中期に書かれた『岩淵夜話』に記され、講談にもなったほどに歴史のあるエピソードで、その逸話を残した人物こそが本項の主人公である鈴木久三郎(すずき‐きゅうさぶろう)です。

史実における“鯉の話”とは?

鈴木久三郎は講談に取り上げられるほどの人物でありながら、家族構成も生年も不詳であり、判明しているのは岡崎城主時代(1560年~1570年の間か)の家康に仕えていたことです。その当時、家康は勅使などの来客用に三尺ほどの鯉を生け簀で放し飼いにしていましたが、久三郎はその鯉一匹を台所の係に料理して貰ったばかりか、織田信長から頂戴していた南都諸白(奈良で造られた高級な清酒)を開けて皆に飲み食いさせ、自分もそれを食べてしまいます。


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その盗みを聞かされた家康は、久三郎を手討ちにすべく長刀の鞘をはずし、広縁に立って久三郎を呼び付けます。それは一般的な彼のイメージである“辛抱強い、温厚、冷静”と言った理性的な家康像からは想像もできない姿ですが、来客用の鯉ばかりか信長公より拝領の御酒を勝手に処分と言う非常識に激怒したのでしょう。その主君に対して久三郎は、こう叫びます。
「抑魚鳥に人間をかゆると云事があるものにて候や、左様の御心にて天下の望は成まじく候、我等が義はなされ度様に可被成」
(だいたい、魚や鳥と人間を引きかえると言う話があるのでしょうか?このようなお心では家康様の天下取りはなし得ますまい…拙者の処分はお好きなようになさってくださいませ)

脇差を投げ捨てて肌脱ぎで自分の傍に近寄って来た久三郎を見た家康は長刀を捨て、赦そうと言って座敷に入ります。その後、家康は久三郎を招くと、
「君の忠誠心に私は大いに感心している。勝手に鷹場や城の堀で密猟をした足軽共2人も釈放することにしたよ」
と家康が言うと久三郎も、
「拙者の心を汲んで頂けるとは何と有難いことか!誠に、家康様が天下人となられる吉兆でございましょう」
と感涙にむせび泣いたことを記して『岩淵夜話』における久三郎の物語は終わります。

三方ヶ原で家康を逃がしたもう一人の影武者伝説

元亀3年(1573年)、三方ヶ原の戦いで大軍を巧みに指揮する武田信玄に大敗した家康は死を覚悟しますが、そこでも久三郎は活躍しました。絶体絶命の窮地にいた家康を救った武将と言えば互いの甲冑を交換して主君を武将に偽装し、自分は家康を名乗って討ち死にした夏目吉信(広次、正吉とも)が有名ですが、この久三郎は采配を取る軍配を使って身代わりになります。

家臣を死なせるのを嫌う家康の煮え切らない態度に怒った久三郎は家康を逃がすと、総大将である彼が使う軍配を奪って敵中に引き返します。家康退却を成功させた彼のその後については二通りあり、ひとつは武田勢との激闘で影武者となって戦死したとする説です。この説に従えば、鈴木久三郎の没年は1573年になります。

もうひとつが獅子奮迅の勢いで奮戦し、九死に一生を得て帰還したとするもので、帰館した家康が悲しみをあらわにしていると、死んだと思っていた久三郎が帰って来たので家康は喜び、久三郎は何事もなかったように涼しい顔で座ったというものです。いずれにしても、“鯉の話”で見せた実直さと勇気を遺憾なく発揮した久三郎と言う1人の武士の豪胆さを端的にあらわしたエピソードと言えるでしょう。

ここまでが、史実における鈴木久三郎の逸話です。逸話こそ少ないですが、彼の生きざまは『どうする家康』のみならず、先述した講談でも取り上げられています。


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講談で『鈴木久三郎 鯉の御意見』では家康はもちろん、久三郎のおかげで許された足軽達にもスポットが当てられたり、久三郎は登場しないものの昭和58年(1983年)の大河ドラマ『徳川家康(主演:滝田栄さん)』で別の人物が彼の立ち位置で鯉の逸話が描かれるなど、マイナーながらも勇気に富んだ忠臣・鈴木久三郎の物語は今も語り継がれています。

参考サイト

岩淵夜話
『鈴木久三郎 鯉の御意見』あらすじ

(寄稿)太田

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